くるみえんの書き初め

「おはようございます」

書き初めのために用意された静かな部屋に、子どもたちはひとりずつ挨拶をして入ってきます。

この部屋に入れるのは子どもが3人だけ。終わったら次の人を呼んで、順番に取り組みます。

まずは上履きを脱ぎ、カーペットの上に正座をしたら、お習字の先生と向かい合ってご挨拶。

「よろしくおねがいします。」

今日は担任の先生ではなく、別の職員が一日お習字の先生なので、子どもたちも少し緊張しているのかな?

普段はどろんこになって園庭を駆け回っている子どもたちが、一様に礼儀正しくて、そんな様子にクスっと笑ってしまいます。

背筋をピンと伸ばし、用意されたお習字セットの前に正座します。

「何か書きたいものある?」と先生。

そう、お題は自由なのです。

「う〜ん、何を書こう?」としばし考える子どもたち。

おそらく人生初めての書き初めで、自由に書いてもいいよ、と言われても悩ましいかもしれません。

くるみえんでは普段から子どもたちに「どうしたいの?」とよく声をかけているそうです。

自分で何をしたいのか考え、それを相手に伝えることをとても大事にしているからです。

お題をあえて設定しないのも、子どもの気持ちを尊重し大事にしてくれる、くるみえんらしい取り組みだなと思いました。

「まずは自分の名前を書こうかな」

「すごくいい線がかけているね」

「上手にかけているね。」

先生から温かい励ましの言葉をもらいながら、子どもたちはいつになく集中して書いています。

「ぺんぎん」

「こおりおに」

一生懸命に書いた字も、書いた言葉も、子どもらしくてかわいらしい。

この幼児期にしか書けないであろう、つたなくも素直な字。

作品一枚一枚がとても愛おしく思えます。

一枚にじっくり時間をかけて取り組む子や、さっさと何枚も書きあげる子など様々ですが、何枚書くか、どれくらい時間をかけて書くかも、ここでは自由。

子どもの気持ちで決めていいのです。

自分で決めているから、どの子も満足した様子で、書き初めを終えていきます。

「ありがとうございました。」

しっかり挨拶をしてから、書き初めを終えた子どもたちが教室へ戻っていきます。

くるみえんの書き初めは、「書き初め」という文化に触れることを目的にしていて、真っ当なお習字教室とは少し違うけれど、子どもたちが心をのびのびと広げながら、書きたいように書き、それを認めてもらう、とても優しい時間で、幼児期に行うものとしてはこれで十分なんだろうな、と思いました。

「上手であることを求められない」、というのは見ている親としても安心するもので、そうした上手・下手の尺度ではなく、子どものありのままを認める保育をしてくれていることを、本当にありがたく感じました。

その日、娘は初めて書いた書き初めを持って帰ってきました。

「これはひとで、これははいるっていう漢字なんだよ!」と、どこかで仕入れたばかりの漢字を書いて得意顔でした。

自信満々で書いた、つたない字が、母にはかけがえのない宝物です。  

(年長母)

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